高血圧症とは、血圧が基準値を超えている状態を指します。
耳にする機会の多い身近な病気ですが、適切な治療を受けずに長期間放置すると、さまざまな合併症を発症するリスクがあります。
この記事では、高血圧症の基本的な情報や起こりうる合併症のリスク、予防策などについて詳しく解説していきます。
高血圧症は自覚症状に乏しく、気付かぬうちに進行している可能性が高い病気です。
定期的な健診や家庭での血圧測定を習慣化し、早期から予防策を講じることで、病気の発症・進行を防ぎましょう。
高血圧症とは
高血圧症とは、血圧が慢性的に高い状態です。一般的には収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合に診断されます。高血圧が続くと心臓や血管に負担がかかるため、脳卒中や心筋梗塞といった、重大な合併症のリスクを高めます。日本では、成人の3人に1人が高血圧症を患っているといわれており、自覚症状がほとんどないまま進行することが多いため「サイレントキラー」とも呼ばれます。予防には、定期的な血圧チェックや生活習慣の改善が不可欠です。
高血圧症の主な症状
自覚症状がない場合も多い
多くの場合、明らかな自覚症状がないまま進行します。しかし、頭痛やめまい、動悸、胸の痛みなどの症状があらわれた場合は特に注意が必要です。これらの症状が続いている場合、血圧が160/100mmHgを超えている可能性があります。脳卒中や心筋梗塞といった、命にかかわる重大な疾患の発症リスクが高いため、早めの対策が必要です。
頭痛
頭痛は、高血圧症の警告サインの一つです。血圧が急激に上昇すると脳の血流が増加し、脳に浮腫(むくみ)が生じることで頭蓋内圧が上昇。神経が刺激され、頭痛を引き起こします。高血圧性脳症と呼ばれるこの症状は早朝に発症しやすく、吐き気や嘔吐をともなう場合もあります。放置すると視力障害や痙攣、意識障害といった深刻な症状につながるため、早急に適切な治療を受けましょう。また、脳出血や脳梗塞といった深刻な病気の症状である可能性もあるため、注意が必要です。
めまい
高血圧症によるめまいは「ふわふわとした不安定な感覚」や「回転性のめまい」として感じられることが特徴です。ただし、高血圧そのものがめまいを引き起こすことは少なく、主な原因として以下のようなものが考えられます。
- 降圧剤の副作用
- 急激な血圧低下による起立性低血圧
- 三半規管の異常
高血圧が原因で発生する脳卒中や心臓の疾患では、血流が悪化することで、めまいを引き起こす場合もあります。激しい頭痛や言語障害などほかの症状をともなう場合や、めまいが頻繁に起こる場合は、早急に病院を受診しましょう。
動悸や胸痛
血圧が高い状態が続くことで心臓や血管に負担がかかり、動悸や胸痛を生じることがあります。また、血管への負担が動脈硬化を進行させ、心臓の筋肉が酸素不足になることで、狭心症や心筋梗塞といった深刻な病気に発展するリスクが高まります。動悸や胸痛を感じる場合は、心臓に十分な血液が供給されていない可能性があるため、早めの受診と適切な治療が重要です。
鼻血
高血圧では血管に過度な負担がかかるため、鼻粘膜の血管が弱まり、鼻血が出やすくなります。鼻血が繰り返し起こる場合は、高血圧が原因である可能性もあるため、生活習慣の改善と病院の受診をおすすめします。
高血圧が引き起こす合併症のリスク
高血圧症を放置すると血管壁に過度な負担がかかり、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高まります。具体的には、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞、腎不全などです。また、網膜症や視力低下といった目の合併症も発生しやすく、最悪の場合、失明してしまう可能性もあります。
脳卒中
脳卒中とは、脳梗塞や脳出血を含む重篤な病気で、発症すると命に関わる場合も少なくありません。高血圧症は、脳卒中を引き起こすリスク要因の一つです。血圧が高い状態が続くと、血管に負担がかかり、動脈硬化が進行します。その結果、血管が詰まったり破裂したりして、脳梗塞や脳出血が引き起こされます。日本では、食塩摂取量が多いことが高血圧の原因となり、脳卒中の発症リスクを高めています。予防には、日常的な減塩や適度な運動、禁煙が重要です。
心筋梗塞
高血圧症は、心筋梗塞のリスク要因の一つです。長期間にわたる高血圧は血管の壁にダメージを与え、動脈硬化を進行させます。心臓に酸素や栄養を届ける冠動脈が、動脈硬化によって狭くなることで血流が減少し、心筋梗塞を引き起こすおそれがあります。さらに、高血圧が心臓に負担をかけ、心筋を肥厚させることで、心臓の機能をさらに低下させるリスクもあります。定期的に血圧測定や健康診断を受け、高血圧症の早期発見・早期治療に努めることが重要です。
腎不全
腎臓は、血液をろ過し、体内の老廃物や余分な水分を排出する重要な臓器です。高血圧によって腎臓内の細い血管が損傷すると、腎機能が徐々に低下していきます。慢性腎臓病(CKD)が進行すると、腎臓は老廃物を十分に除去できなくなり、最終的に腎不全に至る可能性があります。腎不全が進行すると、透析や腎移植などの治療が必要になるため、予防と早めの治療が大切です。
網膜症・眼底出血
高血圧は、目の細い血管にも影響を与えるため、網膜症や眼底出血などの合併症を引き起こす可能性もあります。高血圧の影響で網膜にある血管が硬くなると、血管壁がもろくなり、血管が破れやすくなるためです。また、網膜の中心部である黄斑に浮腫が発生すると、視力に大きな影響を与えることもあります。この状態を放置すると、網膜の一部が壊死したり新生血管が伸びてきてさらに出血したりといったリスクがありますが、早期に適切な治療を受けることで進行を抑えることが可能です。高血圧の指摘を受けた方は、内科への通院だけでなく、眼科で眼底検査を受けることもおすすめします。
心房細動発症のリスクも
高血圧が持続すると心臓に負担がかかり、心房細動の発症リスクが増大します。心房細動とは、心房が不規則に震えるタイプの不整脈です。心房細動を発症すると心臓内に血液が停滞するため、血栓が形成されやすくなり、これが脳の血管に詰まると脳梗塞を引き起こします。心房細動を予防するためには、血圧を適切に管理し、脈拍の変動にも注意を払うことが重要です。
高血圧症の予防ガイド
健康的な食事を心がける
塩分制限
高血圧を予防するためには、塩分を控えることが非常に重要です。過剰な塩分摂取は体内のナトリウム濃度を上昇させ、血圧を上げる原因となります。ナトリウムが増えると血液量が増加し、血圧壁にかかる圧が増すためです。日本高血圧学会では1日6g未満の塩分摂取が推奨されていますが、味噌汁や漬物など塩分の高い食品が多い日本食では、なかなか難しい課題です。減塩調味料の使用や外食時のメニュー選びを工夫し、塩分控えめの生活を心がけましょう。
カリウムやマグネシウムを摂取
高血圧症の予防には、塩分制限だけでなく、カリウムやマグネシウムの摂取が重要です。カリウムとマグネシウムには、それぞれ以下のような効果が期待できます。
カリウム
カリウムにはナトリウムの排出を助ける役割があるため、血圧を下げる効果があります。日本食にはナトリウムが多く含まれるため、塩分制限と併せてカリウムを意識的に摂取することが推奨されています。
カリウムを多く含む食材
- バナナ
- ほうれん草
- さつまいも
- アボカド
- 豆類(特に黒豆やレンズ豆など)
マグネシウム
マグネシウムは、体内のナトリウムバランスを整え、血管を拡張させることで血圧上昇を抑制してくれます。マグネシウムのサプリメントを過剰摂取すると、栄養バランスが乱れ、ほかのミネラルとのバランスが崩れる可能性があるため注意が必要です。
マグネシウムを多く含む食材
- ナッツ類(特にアーモンドやカシューナッツ)
- 種子:かぼちゃの種やヒマワリの種など
- 豆類:黒豆やレンズ豆など
- 全粒穀物:オートミールや玄米など
- 葉物野菜:ほうれん草や小松菜など
有酸素運動
適度な運動を行うことで体内の余分な塩分が排出され、血液の流れが改善されます。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を継続することで、血圧の改善・安定が期待できるでしょう。毎日30分以上、もしくは1回につき10分以上の運動が効果的です。ご自身のペースで、少しずつ負荷を増やしていくことが重要です。ウォーキングを行う際には背筋を伸ばし、手を大きく振ることを意識するとよいでしょう。
生活習慣の改善
過度な飲酒・喫煙を避ける
高血圧症の予防には、過度な飲酒や喫煙を避けることが非常に重要です。これらの習慣は血圧を上昇させ、心血管疾患のリスクを高める要因となります。
飲酒は適量を心がける
アルコールには血管を収縮させる作用があり、長期的かつ多量の飲酒は高血圧の進行を助長します。飲酒は適量に抑え、週に1〜2日は休肝日を設けることがおすすめです。
禁煙
喫煙は、ニコチンの影響で血管が収縮し、心拍数が上がるため血圧も上昇します。また、喫煙は心臓や脳に対するリスクを増加させるため、禁煙を心がけることが重要です。健康的な生活習慣を意識し、心血管疾患のリスクを軽減しましょう。
ストレスコントロール
ストレスが自律神経のバランスを崩し、交感神経が優位になることで血圧が上昇します。交感神経とは、身体が「戦う」準備をする際に働く神経です。具体的には心拍数を増加させ血管を収縮することで、高血圧を引き起こします。ストレスコントロールにはリラクゼーション法や、趣味に時間を使うことで心を落ち着ける方法が効果的です。また、十分な睡眠や、規則正しい生活リズムの維持もストレス管理の重要なポイントの一つです。健康的な生活習慣を意識し、高血圧症のリスクを軽減しましょう。
まとめ
高血圧症の予防には、日々の生活習慣の見直しが不可欠です。
主要なポイントは、食習慣の見直し・適度な運動・生活習慣の見直しの3つです。
まず、塩分の摂取量を減らし、カリウムやマグネシウムを多く含む食材を意識的に取り入れましょう。
定期的な有酸素運動は、血圧の改善・コントロールに役立ちます。
できるだけ階段を使用したり、通勤方法を徒歩・自転車に変えたりするなど、日常生活に運動を取り入れる方法がおすすめです。
また、飲酒や喫煙習慣のある方は、適量を心がけましょう。
健康的な生活を獲得するために、禁酒・禁煙に挑戦してみるのもおすすめです。
これらの対策を取り入れることで、心身の健康を保ち、より良い生活を送ることが可能になります。
ご自身の健康を守るために、まずは実行できることから始めてみましょう。
達成可能な範囲で目標を設定することが、継続のカギとなります。
参考文献
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html
https://seikatsusyukanbyo.com/guide/hypertension.php
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/69/6/69_386/_pdf
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/hypertension-2
参考情報
文字数:4,168文字
(タイトル・見出しを除く)
執筆者
Webライター|立岩 奈緒