パーキンソン病は、高齢者を中心に発症することが多い神経疾患のひとつです。
進行がゆるやかなため、初期のサインに気付かず見過ごされてしまうこともあります。
さらに、症状のあらわれ方や進み方には個人差があり、原因もひとつではありません。
この記事では、パーキンソン病の主な原因や症状の特徴などをわかりやすく解説します。
手足の震えや体の重だるさなどの症状に心当たりのある方は、ぜひ参考にしてみてください。
パーキンソン病とは?
パーキンソン病とは、脳の神経に異常が起きることで、手足の震えや動作の遅れといった症状があらわれる進行性の神経疾患です。
ドパミンという物質の減少が主な原因とされています。
ドパミンは体をなめらかに動かすために必要な神経伝達物質であり、これが不足すると、震えや動作の遅れが起こりやすくなります。
発症初期は片側の手や足だけに症状が出ることもあり、加齢や疲労と間違われやすく、発見が遅れる場合もあります。
進行を防ぐには、早めの受診と適切な治療がとても重要です。
少しでも体の動きに違和感があれば、専門の医師に相談しましょう。
パーキンソン病の症状の特徴
パーキンソン病は、体の動きに関わるさまざまな症状が少しずつあらわれる病気です。
初期症状は見逃されやすいため、早めに気付くことが大切になります。
手足の震え(振戦)
パーキンソン病の代表的な症状のひとつが、安静時にあらわれる手足の震えです。
特に、指先や手が小刻みに震えることが多く、物を持つときに気付くことがあります。
動いている間は震えが目立たなくなるため、初期は見逃されることも少なくありません。
片側の手や足から始まり、徐々に反対側にも広がるのが一般的な経過です。
また、緊張やストレスによって震えが強くなる傾向もあります。
こうした症状に心当たりがある場合は、早めに神経内科での診察を受けましょう。
動作の緩慢(動作緩慢)
パーキンソン病の代表的な症状として、動作が遅くなる動作緩慢があります。
これは、脳内でドパミンの分泌が減少し、体を動かす指令がうまく伝わらなくなるために起こる症状です。
歩き始めに時間がかかる、動きの切り替えに戸惑うといった変化があらわれやすく、本人が意識しないうちに症状が進んでいるケースも少なくありません。
日常生活では、食事や着替えなどに時間がかかるようになり、動きそのものがぎこちなく感じられるようになります。
また、会話のテンポが遅くなる、表情が乏しく見えるなど、周囲が気付きやすいサインも含まれます。
これらの症状が重なってみられる場合は、パーキンソン病の可能性も考慮し、専門の医師への相談を検討しましょう。
筋肉のこわばり(筋強剛)
パーキンソン病では、筋肉が硬くなり、動かしにくくなる症状があらわれます。
これは筋強剛と呼ばれ、関節を曲げ伸ばしする際に抵抗が生じるのが特徴です。
筋肉が常に緊張しているような状態になるため、歩行時にぎこちない動きがみられることがあります。
肩や首、腰まわりが動かしにくくなり、姿勢が崩れやすくなるのもこの症状に関係しています。
自覚症状としては、「筋肉が重だるい」「身体がこわばる」と感じるケースが多いようです。
筋強剛は見た目ではわかりづらいこともありますが、日常動作にじわじわと影響を及ぼします。
こうした違和感が続く場合は、早めに神経内科を受診することが大切です。
姿勢の異常と歩行障害
パーキンソン病では、背中が丸くなる、前かがみになるといった姿勢の変化がみられます。
これは、筋肉のこわばりやバランス感覚の低下により、体をまっすぐ保ちにくくなるためです。
立ち姿が不安定になるだけでなく、歩き方にも影響が出てきます。
具体的には、歩幅が狭くなる、すり足になる、歩き出しに時間がかかるといった歩行障害があらわれます。
動きの途中で足が止まってしまう「すくみ足」もパーキンソン病に特有の症状です。
その結果、転倒しやすくなり、外出や日常生活にも支障をきたすことがあります。
バランスの低下と転倒リスクの増加
パーキンソン病では、体のバランスを保つ機能が弱まり、転倒の危険性が高まります。
これは、筋肉のこわばりや姿勢の乱れ、動作の遅れなどが複合的に影響するためです。
特に、方向転換や立ち上がりの動作時にふらつきが生じやすく、歩行時の安定感も失われていきます。
障害物につまずいたり、わずかな段差でも転びやすくなるため、家庭内での事故にも注意が必要です。
病気が進行すると「すくみ足」により足が前に出なくなり、そのまま転倒してしまうケースもあります。
こうしたバランスの崩れは、本人の自覚がないまま進行することもあるため、周囲のサポートも重要です。
表情の変化(仮面様顔貌)
パーキンソン病を発症すると顔の筋肉の動きが乏しくなり、無表情にみえることがあります。
これは仮面様顔貌(かめんようがんぼう)と呼ばれ、笑ったり驚いたりといった表情が出にくくなる症状です。
本人にそのつもりがなくても、周囲からは「元気がなさそう」「感情が伝わらない」と受け取られることがあります。
顔の筋肉も体のほかの部位と同様にこわばるため、まばたきが減る、口元が動きにくいなどの変化が出ることもあります。
その結果、会話のなかで気持ちが伝わりにくくなり、人とのコミュニケーションに影響することも少なくありません。
表情の変化に気付いたときは、ほかの症状とあわせて医療機関に相談することが大切です。
声や書字の変化
パーキンソン病の症状は、体の動きだけでなく「声」や「文字」にもあらわれます。
具体的には、声が小さくなったり、単調で抑揚のない話し方になったりするのが特徴です。
本人は自覚がないことが多く、周囲の人から「声が聞き取りづらくなった」と指摘されることで初めて意識することもあります。
また、文字を書く際に、書き始めは普通でもだんだん小さくなっていく小字症がみられることもあります。
この変化は、脳からの命令が筋肉にうまく伝わらなくなることで起こると考えられています。
声や筆跡の変化は日常的な動作のなかで気付けるため、早期発見の手がかりにもなります。
パーキンソン病の進行の流れ
パーキンソン病の症状は、少しずつ進行するのが特徴です。
病気が進行すると、体の動きに関する変化だけでなく、日常生活にもさまざまな影響が出てきます。
初期
パーキンソン病の初期症状は目立ちにくく、気付かれにくい傾向があります。
この時期によくみられるのは、片側の手や足の震え(振戦)や、動きが遅くなるといった変化です。
歩行時に片腕だけ振れない、動作がぎこちないと感じたときは注意が必要です。
ボタンがかけづらい、字が書きにくいなど、日常のささいな動作にあらわれることもあります。
声が小さくなる、表情が固くみえるといった症状から周囲が先に気付くケースもあります。
ただし、これらの症状は年齢による変化と勘違いしやすく、病気の兆候を見逃してしまうことも少なくありません。
中期
中期になると、パーキンソン病の症状は両側にあらわれ、動きにくさが日常生活に影響を及ぼし始めます。
すくみ足や小刻み歩行が強まり、転倒の危険が高くなるのもこの時期の特徴です。
着替えや入浴などの動作に時間がかかり、自力で行うことが難しくなるケースもあります。
声が小さくなる、表情が乏しくなるといった変化も進行し、会話が成立しにくくなることも少なくありません。
無理をせず、医療・生活の両面から支援体制を整えることが大切です。
進行期
進行期に入ると、パーキンソン病の症状はさらに強まり、生活のなかでの制限が大きくなってきます。
歩行補助具や車いすを必要とするケースもあり、移動そのものが難しくなる場合も少なくありません。
また、日常動作に加えて、食事や排泄といった基本的な行為にも介助が求められるようになります。
服薬のタイミングにより、動ける時間と動けない時間の差が大きくなるのもこの時期の特徴です。
後期
後期に入ると身体の自由が大きく制限され、日常生活の多くを他者に頼るようになります。
筋力の低下や姿勢の保持が困難になることで、寝たきりに近い状態になる人も少なくありません。
さらに、飲み込みの力が弱くなる嚥下障害や、意思表示が難しくなるケースもみられます。
呼吸機能や排泄機能にも影響がおよび、医療的ケアが必要になることもあるでしょう。
介護者の負担も大きくなるため、訪問看護や施設利用など、専門的な支援を活用することが望まれます。
非運動症状の進行
パーキンソン病は、運動機能だけでなく、自律神経や精神面にも影響を及ぼす病気です。
例えば、便秘や頻尿、立ちくらみなどの自律神経の不調があらわれると、日常生活の負担が大きくなっていきます。
眠りが浅い、夜中に目が覚めるといった睡眠の質の低下もみられるようになり、気分の落ち込みや不安感が続くケースも少なくありません。
また認知機能に変化があらわれ、思考や記憶に関するトラブルが目立つこともあります。
こうした症状は外見から判断しづらいため、本人の訴えや周囲の理解が欠かせません。
身体だけでなく心のサポートも含め、包括的なケアを意識することが大切です。
パーキンソン病の主な原因はドパミンの減少
パーキンソン病は、脳内でドパミンという神経伝達物質が不足することで発症すると考えられています。
ドパミンは、体を滑らかに動かすための信号を筋肉に伝える重要な役割を果たす物質です。
そのドパミンを作る黒質の神経細胞が減少すると、体の動きが思うように制御できなくなります。
震えや動作の遅れ、歩行の不安定さなどの症状は、こうした変化に起因するとされています。
ただし、なぜ神経細胞が壊れてしまうのか、はっきりした原因はまだ解明されていません。
加齢や遺伝、環境要因などが複雑に関係しているとみられています。
発症リスクに関わる要因|加齢や遺伝との関係
パーキンソン病は、加齢や遺伝などのさまざまな要因が重なって発症すると考えられています。
リスクを理解することで、早期発見や予防につながるきっかけになります。
加齢
パーキンソン病の発症には、加齢が深く関係していると考えられています。
加齢とともに神経細胞が減少し、ドパミンの分泌や働きは少しずつ弱くなっていきます。
特に60歳を過ぎたあたりから発症率が高くなる傾向があり、年齢は重要なリスク要因のひとつです。
ただし、高齢者全員が発症するわけではなく、遺伝や生活習慣などの影響も絡んでいます。
「最近動きが鈍い」「歩きにくい」と感じたときは、迷わず医師に相談しましょう。
年齢による変化は避けられませんが、早めの気付きが進行の抑制につながります。
遺伝的要因
パーキンソン病の一部は、遺伝的な体質が関与しているといわれています。
特定の遺伝子に異常があると、神経細胞がダメージを受けやすくなる可能性があるためです。
家族に患者がいる場合、発症リスクがやや高まるという報告もあります。
とはいえ、患者さまの多くは家族歴がなく、加齢や環境の影響による発症が大半を占めています。
遺伝子に変化があっても、必ずしも病気になるとは限りません。
気になる症状があるときは、神経内科で一度相談してみると安心です。
男女差
パーキンソン病は、性別によって発症リスクに差があるといわれています。
なかでも男性は女性よりも発症率が高く、国内外の研究でもこの傾向が確認されています。
ホルモンの違いや生活環境、脳の構造のわずかな差異などが関与している可能性があるようです。
一方で、女性は閉経後にリスクが上昇するともいわれており、年齢やホルモンバランスの変化にも注意が必要です。
ただし、性別だけで発症が決まるわけではなく、遺伝や環境など複数の要因が重なって影響を及ぼすと考えられています。
遺伝と環境の相互作用
パーキンソン病の発症には、遺伝と環境の両方が影響していると考えられています。
遺伝的な要因だけでなく、後天的な環境が加わることで発症リスクが高まる場合があります。
例えば、農薬や重金属への長期曝露、大気汚染などが神経に与える影響が指摘されてきました。
睡眠不足や慢性的なストレス、運動不足といった生活習慣の乱れも関係する可能性があります。
こうした要因が複雑に重なり合い、発症につながる仕組みは一人ひとり異なります。
パーキンソン病を疑ったら何科を受診?
「パーキンソン病かもしれない」と感じたときは、神経内科の受診がおすすめです。
この診療科では、脳や神経の機能に関する専門的な診断と治療を受けることができます。
特に、手足の震えや動作の遅れ、歩きにくさなどが続く場合には、早めの受診がすすめられます。
もし神経内科が近くにない場合は、まずはかかりつけの内科医に相談するとスムーズです。
早期に適切な診断を受けることで、進行を抑えたり、生活の質を保ったりしやすくなります。
まとめ
パーキンソン病とは、脳内のドパミンが減少することで起こる神経の病気です。
加齢や遺伝、環境要因など複数の要素が関わっており、誰にでも発症の可能性があります。
初期には見逃されやすい症状も多く、気付かないうちに進行することも少なくありません。
手足の震えや動作の遅れ、表情の変化などに心当たりがある場合は、無理をせず医師に相談してみてください。
専門的な診断を受けることで、早期から適切な治療につなげることができます。
不安なときは一人で抱え込まず、医療機関を頼ることも大切です。